第6章 行列の標準形
前回までに固有値がすべて異なる場合の固有値問題を検討した. ここでは一般の場合と, 比較的高度な話題の導入を行う.
6.1 一般固有空間への分解
6.1.1 ハミルトン・ケーリーの定理
\(X\) を有限次元線形空間, \(f:X\to X\) を線形とする. 特定の基底に関する行列表現を \(A\) としたとき, 特性多項式を
\[ \phi_{A}(z)=\det(zI-A) \] と定義した. 基底の取り替えによって \(f\) の表現が \(P^{-1}AP\) となるようにした場合, \[ \phi_{P^{-1}AP}(z)=\det(zI-P^{-1}AP)=\det P^{-1}\det(zI-A)\det P=\phi_{A}(z) \] が成り立つことに注意すると, 固有多項式は基底に依存しないことが分かる. したがって, 行列の固有値問題はその背後にある線形写像の固有値問題である. 以下では, 固有多項式を \(\phi_{f}(z)\) と書く.最後の等式は \(v\in\ker p(f)\cap\ker q(f)\) を使った.
次に, 各 \(\ker(f-\lambda_{i})^{n_{i}}\) は \(f\) の不変部分空間であることを示す. 実際, \(x\in\ker(f-\lambda_{i})^{n_{i}}\) とすれば, \(f(f-\lambda_{i})^{n_{i}}x=(f-\lambda_{i})^{n_{i}}f(x)=(f-\lambda_{i})^{n_{i}}\lambda_{i}x=\lambda_{i}(f-\lambda_{i})^{n_{i}}x=0\).
上の様に構成した基底の下で \(f\) はブロック対角行列になる. [TODO: Cross-reference]6.1.2 最小多項式
ハミルトン・ケーリーの定理より固有多項式が \(\phi_{f}(f)=0\) を満たすことを確認した. しかし, \(\phi_{f}(z)\) はこの性質をもつ唯一の多項式ではない.最小多項式は特定の行列表現に依存しないことに注意.
最小多項式 \(m_{f}\) は\(\phi_{f}\) と共通のゼロ点をもつので, 因数分解すると \[ m_{f}(z)=(z-\lambda_{1})^{\tilde{n}_{1}}\cdots(z-\lambda_{r})^{\tilde{n}_{r}} \] とできる.
6.1.3 一般固有空間への分解
一般固有空間の構造を定めよう. 表記の簡単のため, \(\tilde{n}:=\tilde{n}_{i}\), \(F:=f-\lambda_{i}\), \(M_{k}:=\ker F^{k}\)とする. \[ \mathbb{F}^{n}=M_{\tilde{n}}\supsetneq M_{\tilde{n}-1}\supsetneq\cdots\supsetneq M_{1}\supsetneq M_{0}=\{0\} \] に注意する. \(M_{\tilde{n}_{-1}}\) の基底に \(V_{\tilde{n}}=\{v_{1}^{\tilde{n}},\dots,v_{r(\tilde{n})}^{\tilde{n}}\}\) を付け加えて, \(M_{\tilde{n}}=\mathbb{F}^{n_{i}}\) の基底になるようにできる. すなわち \[ \mathbb{F}^{n}=\mathrm{span}V_{\tilde{n}}\oplus M_{\tilde{n}-1}. \] このとき, \(FV_{\tilde{n}}:=\{Fv_{1}^{\tilde{n}},\dots,Fv_{r(\tilde{n})}^{\tilde{n}}\}\subset M_{\tilde{n}-1}\) である. これらのベクトルは1次独立であり, \[ \mathrm{span}FV_{\tilde{n}}\cap M_{\tilde{n}-2}=\{0\} \] が成り立つ. なぜなら, \[ \alpha_{1}Fv_{1}^{\tilde{n}}+\cdots+\alpha_{r(\tilde{n})}Fv_{r(\tilde{n})}^{\tilde{n}}\in M_{\tilde{n}-2} \] とすれば, \[ \alpha_{1}v_{1}^{\tilde{n}}+\cdots+\alpha_{r(\tilde{n})}v_{r(\tilde{n})}^{\tilde{n}}\in M_{\tilde{n}-1}. \] \(V_{\tilde{n}}\) の構成により, \(\alpha_{1}=\cdots=\alpha_{r(\tilde{n})}=0\) となる. したがって, \(M_{\tilde{n}-2}\) の基底に \[ FV_{\tilde{n}}\cup\{v_{1}^{\tilde{n}-1},\dots,v_{r(\tilde{n}-1)}^{\tilde{n}-1}\}=:FV_{\tilde{n}}\cup V_{\tilde{n}-1}=\bigcup_{k=0}^{1}F^{1-k}V_{\tilde{n}-k}=:W_{\tilde{n}-1} \] を付け加えて (\(V_{\tilde{n}-1}=\emptyset\) かもしれない, \(0\le r(\tilde{n}-1)\)), \(M_{\tilde{n}-1}\) の基底を構成できる. \(FW_{\tilde{n}-1}\) の元は1次独立であり, \(FW_{\tilde{n}-1}\cap M_{\tilde{n}-3}=\{0\}\) が成り立つ. したがって, \(M_{\tilde{n}-3}\) の基底に, \[ W_{\tilde{n}-2}:=FV_{\tilde{n}-1}\cup\{v_{1}^{\tilde{n}-2},\dots,v_{r(\tilde{n}-2)}^{\tilde{n}-2}\}=:FV_{\tilde{n}-1}\cup V_{\tilde{n}-2} \] を付け加えて, \(M_{\tilde{n}-2}\) の基底を構成できる. 同様の手続きを \((\tilde{n}-1)\) 回続けると, \(M_{1}\) の基底 \[ W_{1}:=FV_{2}\cup\{v_{1}^{1},\dots,v_{r(1)}^{1}\}=:FV_{2}\cup V_{1} \] を得る. このようにして得た, \[ V=\begin{Bmatrix}F^{\tilde{n}-1}V_{\tilde{n}} & F^{\tilde{n}-2}V_{\tilde{n}-1} & F^{\tilde{n}-3}V_{\tilde{n}-2} & \cdots & FV_{2} & V_{1}\\ \vdots & \vdots & \vdots & \ddots & V_{2}\\ F^{2}V_{\tilde{n}} & FV_{\tilde{n}-1} & V_{\tilde{n}-2}\\ FV_{\tilde{n}} & V_{\tilde{n}-1}\\ V_{\tilde{n}} \end{Bmatrix}\label{eq:V} \] は\(\mathbb{F}^{n}\) の基底を成す. 基底の並べ方は, 次のように縦方向にならんでいると考えよう. \[ V=\left\{ \begin{array}{ccccc} F^{\bullet}V_{\tilde{n}} & F^{\bullet}V_{\tilde{n}-1} & F^{\bullet}V_{\tilde{n}-2} & \cdots & V_{1}\\ \hline 1,6 & 11,15 & 19,23 & \vdots\vdots & m-1,m\\ 2,7 & 12,16 & 20,24 & \vdots\vdots\\ 3,8 & 13,17 & 21,25 & \vdots\vdots\\ 4,9 & 14,18 & 22,26\\ 5,10 \end{array}\right\} \label{eq:V-1} \]
6.2 一般化固有値問題
固有値問題を拡張した \[ Av=\lambda Ev,\quad v\neq0,\quad v\in\mathbb{C}^{n} \] を \((E,A)\) に対する一般化固有値問題という. 標準的な状態方程式 \(x_{t+1}=Ax_{t}\) に対しては, 固有値問題 \(Av=\lambda v\) が重要であったように, デスクリプタシステム \(Ex_{t+1}=Ax_{t}\) の分析では一般化固有値問題 \(Av=\lambda Ev\) が重要な役割を果たす. 一般に因果性が成り立たないデスクリプタシステムについては, 解が未来の入力に依存することがある. 一般化固有値問題はシステムを前向き成分と後ろ向き成分に直和分解するシステマティックな方法を与えてくれる.
通常の固有値問題は, \(A\) が「良い形」になるような基底を探すことを目標とした. 一般化固有値問題では, \((E,A)\) が同時に「良い形」になるような基底を探す. 1点違いを強調しておくと, 定義域と終域ではことなる基底をとる. したがって, 変換された行列は \((P^{-1}EQ,P^{-1}AQ)\) によって与えられる. このような問題を扱う場合には, ペンシルと呼ばれる多項式行列 \(zE-A\) を考えると便利なことが多いので, 同じ問題が「ペンシルの正準形」の問題と呼ばれることもある.
この節は Frank L. Lewis (1984), F. L. Lewis (1986), 片山徹 (1999) および Berger, Ilchmann, and Trenn (2012) を参考にした. 付録 B で Berger, Ilchmann, and Trenn (2012) に基づく証明を述べる.
6.2.1 一般化固有値
\((E,A)\) の固有多項式を \[ \varphi_{E,A}(z)=\det(zE-A) \] と定義する. 次の仮定を置く.\(E=(e_{ij}),A=(a_{ij})\in\mathbb{R}^{2\times2}\) として固有多項式を計算してみると, \[ \varphi_{E,A}(z)=(\det E)z^{2}-(e_{11}a_{22}+e_{22}a_{11}+e_{12}a_{21}+e_{21}a_{12})z+\det A \] が成り立つ. \(\det E=0\) であれば, \(\varphi_{E,A}(z)\) の次数は \(n\) を下回る. 一般に, \(\varphi_{E,A}(z)\) が恒等的にゼロでなければ, \(\varphi_{E,A}(z)=0\) は \(d\le n\) 個の解を持つ. これらの解を \((E,A)\) の有限固有値 (finite eigenvalues) という. 有限固有値の集合を \(\mathrm{sp}(E,A)=\{z\in\mathbb{C}\ \mid\ \varphi_{E,A}(z)=0\}\) と定義する.
同時に, \(\det E=0\) であればゼロ固有値 (重複度 \(n-d\)) が存在し, \[ Ev=0,\quad v\neq0,\quad v\in\mathbb{C}^{n} \] なるベクトルが存在する. これらを \((E,A)\) の無限大固有値 (infinite eigenvalue) という.
一般化固有ベクトルの構成はジョルダン標準形のケースとほとんど同じである.
6.2.1.0.1 1次の有限固有ベクトル
\(\lambda_{i}\in\mathrm{sp}(E,A)\) とする.
\[ (A-\lambda_{i}E)v_{ij}^{1}=0 \] なる非ゼロベクトル \(v_{ij}^{1}\), \(j=1,\dots,\eta_{i}=\dim\ker(A-\lambda_{i}E)\) を1次独立に選ぶことができる.
6.2.1.0.2 \(k\)次の有限固有ベクトル
\(\mathrm{span}\{v_{i1}^{1},\dots,v_{i\eta_{i}}^{1}\}\) が\(\lambda_{i}\) の代数的重複度と同じ次元を持てば, \(\lambda_{i}\) に対応する一般化固有空間が完成している. この場合は行列が対角化されている. さもなくば, 各 \(\lambda_{i}\in\mathrm{sp}(E,A)\) と各 \(j=1,\dots,\eta_{i}\) について, 高次の一般化固有ベクトル, すなわち \[ (A-\lambda_{i}E)v_{ij}^{k+1}=Ev_{ij}^{k},\quad k\ge1 \] なる固有ベクトルを探す. ジョルダン標準形の理論ではまさに同じ手続きが重複固有値に対するジョルダン標準形の構造を決定するのであった. このようにして, \(\lambda_{i}\) の代数的重複度と同じ数のベクトルの組 \[ V_{i}=\begin{bmatrix}v_{i1}^{1} & \cdots & v_{i1}^{k_{i1}} & | & \cdots & \cdots & | & v_{i\eta_{i}}^{1} & \cdots & v_{i\eta_{i}}^{k_{i\eta_{i}}}\end{bmatrix} \] が, 1次独立になるようにできる.
6.2.1.0.3 表現行列
各\(v_{ij}\), \(j=1,\dots,\eta_{i}\) に対して定まる部分行列の表現は次のようになる. \[\begin{multline} \begin{bmatrix}Av_{ij}^{1} & Av_{ij}^{2} & \cdots & Av_{ij}^{k_{ij}-1} & Av_{ij}^{k_{ij}}\end{bmatrix}\\ =\begin{bmatrix}Ev_{ij}^{1} & Ev_{ij}^{2} & \cdots & Ev_{ij}^{k_{ij}-1} & Ev_{ij}^{k_{ij}}\end{bmatrix}\begin{bmatrix}\lambda_{i} & 1\\ & \lambda_{i} & 1\\ & & \ddots & \ddots\\ & & & \lambda_{i} & 1\\ & & & & \lambda_{i} \end{bmatrix}.\label{eq:weier_a} \end{multline}\]終域の基底として, \(\begin{bmatrix}Ev_{ij}^{1} & Ev_{ij}^{2} & \cdots & Ev_{ij}^{k_{ij}-1} & Ev_{ij}^{k_{ij}}\end{bmatrix}\) を取っていることに注意せよ.
6.2.1.0.4 1次の無限大固有ベクトル
\(E\) のゼロ固有値に対応する固有ベクトルを求める.
\[ Ev_{\infty j}^{1}=0, \] \(v_{\infty j}^{1}\neq0\), \(j=1,\dots,\eta=\dim\ker E\).
6.2.1.0.5 \(k\)次の無限大固有ベクトル
非ゼロベクトルの列, \(v_{\infty j}^{1},\dots,v_{\infty j}^{k_{\infty j}}\) を
\[ Ev_{\infty j}^{k+1}=Av_{\infty j}^{k},\quad k\ge1 \] が成り立つように選ぶ.
6.2.1.0.6 表現行列
各\(v_{\infty j}\), \(j=1,\dots,\eta_{i}\) に対して定まる部分行列の表現は. \[\begin{multline} \begin{bmatrix}Ev_{\infty j}^{1} & Ev_{\infty j}^{2} & \cdots & Ev_{\infty j}^{k_{\infty j}-1} & Ev_{\infty j}^{k_{\infty j}}\end{bmatrix}\\ =\begin{bmatrix}Av_{\infty j}^{1} & Av_{\infty j}^{2} & \cdots & Av_{\infty j}^{k_{\infty j}-1} & Av_{\infty j}^{k_{\infty j}}\end{bmatrix}\begin{bmatrix}0 & 1\\ & 0 & 1\\ & & \ddots & \ddots\\ & & & 0 & 1\\ & & & & 0 \end{bmatrix}.\label{eq:weier_e} \end{multline}\] 終域の基底として \(\begin{bmatrix}Av_{\infty j}^{1} & Av_{\infty j}^{2} & \cdots & Av_{\infty j}^{k_{\infty j}-1} & Av_{\infty j}^{k_{\infty j}}\end{bmatrix}\) を取っていることに注意せよ.%
6.3 ハミルトン・ケーリーの定理の証明
\(A\) を\(n\times n\) 行列とする. \(A\) の第\(i\)行目と第\(j\)行目を除いた \((n-1)\times(n-1)\) 行列の行列式に \((-1)^{i+j}\) を掛けたものを\(A\)の \((i,j)\) 余因子といい, \(\Delta_{i,j}\) と記す.%
6.4 ワイエルシュトラス標準形の導出
Berger, Ilchmann, and Trenn (2012) (以下, {[}BIT{]})の議論に沿ってワイエルシュトラス標準形を導出しよう.
以下で定義する部分空間列は, Wong (1974) で導入された. 極限空間がデスクリプタシステムの分析に重要な役割を果たすことが知られている. {[}@Lewis1984{]}証明. \(\lambda\in\mathbb{F}\setminus\mathrm{sp}(E,A)\) を固定する. 記号の簡単化のため \(\hat{E}:=(A-\lambda E)^{-1}E\) と記す.
まず, を帰納法で示す. \(k=0\) のとき, \[ \mathcal{V}_{0}=\mathbb{F}^{n}=\mathrm{im}\hat{E}^{0} \] は自明である. \(\mathcal{V}_{k}=\mathrm{im}\hat{E}^{k}\) が成り立つとしよう. \(\mathcal{V}_{k+1}\subset\mathrm{im}\hat{E}^{k+1}\) と \(\mathcal{V}_{k+1}\supset\mathrm{im}\hat{E}^{k+1}\) を示せばよい.
{[}\(\mathcal{V}_{k+1}\subset\mathrm{im}\hat{E}^{k+1}\){]} \(v\in\mathcal{V}_{k+1}\) とする. \(w\in\mathcal{V}_{k}\) を \(Av=Ew\) が成り立つように選ぶ. \[ (A-\lambda E)v=E(w-\lambda v) \] であるから, \[ \begin{aligned} v & =(A-\lambda E)^{-1}E(w-\lambda v)=\hat{E}(w-\lambda v)\in\mathrm{im}\hat{E}^{k+1}. \end{aligned} \]
{[}\(\mathcal{V}_{k+1}\supset\mathrm{im}\hat{E}^{k+1}\){]} \(v\in\mathrm{im}\hat{E}^{k+1}\) としよう. ある \(w\in\mathrm{im}\hat{E}^{k}\) が存在して, \(v=\hat{E}w=(A-\lambda E)^{-1}Ew\) が成り立つ. したがって, \[ Av=E(w+\lambda v). \] \(w+\lambda v\in\mathcal{V}_{k}\) だから, \(v\in\mathcal{V}_{k+1}\) がしたがう.
次に を帰納法で示す. \(k=0\) のとき, \(\mathcal{W}_{0}=\{0\}=\ker\left((A-\lambda E)^{-1}E\right)^{0}\) が成り立つ. \(\mathcal{W}_{k}=\ker\hat{E}^{k}\) が成り立つとしよう.
{[}\(\mathcal{W}_{k+1}\subset\ker\hat{E}^{k+1}\){]} \(v\in\mathcal{W}_{k+1}\) とする. \(Ev=Aw\) なる \(w\in\mathcal{W}_{k}\) が存在する. \[ \begin{aligned} (A-\lambda E)w & =E(v-\lambda w)\\ w & =\hat{E}(v-\lambda w)\\ \hat{E}v= & w+\lambda\hat{E}w\in\ker\hat{E}^{k}. \end{aligned} \] したがって, \(v\in\ker\hat{E}^{k+1}\).
{[}\(\mathcal{W}_{k+1}\supset\ker\hat{E}^{k+1}\){]} \(v\in\ker\hat{E}^{k+1}\) としよう. \[ \hat{E}^{k}\left(\hat{E}v\right)=0, \] \(w=\hat{E}v\) とすれば, \(w\in\ker\hat{E}^{k}=\mathcal{W}_{k}\subset\mathcal{W}_{k+1}\). \[ (A-\lambda E)w=Ev \] したがって, \(E(v+\lambda w)=Aw\), 定義により \(v+\lambda w\in\mathcal{W}_{k+1}\). \(\lambda w\in\mathcal{W}_{k+1}\) より, \(v\in\mathcal{W}_{k+1}\).定理 6.8 ({Proposition 2.4, {[}BIT{]}}) \((E,A)\) をレギュラーとする.
- \(k^{*}=\ell^{*}\),
- \(\mathcal{V}^{*}\oplus\mathcal{W}^{*}=\mathbb{F}^{n}\),
- \(\ker E\cap\mathcal{V}^{*}=\{0\}\), \(\ker A\cap\mathcal{W}^{*}=\{0\}\), and \(\ker E\cap\ker A=\{0\}\).
証明. \([V\ W]\) が正則であることは, \(\mathcal{V}^{*}=\mathrm{im}V\) と \(\mathcal{W}^{*}=\mathrm{im}W\) および \(\mathcal{V}^{*}\oplus\mathcal{W}^{*}=\mathbb{F}^{n}\) より直接従う. \([EV\ AW]\) の正則性を示す. ある\(\xi_{1}\in\mathbb{F}^{n_{1}}\), \(\xi_{2}\in\mathbb{F}^{n_{2}}\) に対して \[ \begin{bmatrix}EV & AW\end{bmatrix}\begin{bmatrix}\xi_{1}\\ \xi_{2} \end{bmatrix}=0 \] が成り立つとしよう. \(V\xi_{1}\in\mathcal{V}^{*}\cap\ker E\) と \(W\xi_{2}\in\mathcal{W}^{*}\cap\ker A\) および定理 (3) より, \[ \begin{bmatrix}V & W\end{bmatrix}\begin{bmatrix}\xi_{1}\\ \xi_{2} \end{bmatrix}=0. \] \([V\ W]\) は正則なので, \(\xi_{1}=0\), \(\xi_{2}=0\) が従う. \([V\ W]\) および \([EV\ AW]\) がともに \(\mathbb{F}^{n}\) の基底であるから, 定義域の基底を \([V\ W]\), 終域の基底を \([EV\ AW]\) に取り替えたときの行列表現は, ブロック対角行列になっているはずである. すなわち, \[ \begin{aligned} A[V\ W] & =[EV\ AW]\begin{bmatrix}J\\ & I_{n_{2}} \end{bmatrix}\\ E[V\ W] & =[EV\ AW]\begin{bmatrix}I_{n_{1}}\\ & N \end{bmatrix} \end{aligned} \] なる \(J\) および \(N\) が存在する.
あとは, \(N\) がべきゼロであることを示せばよい. 実は, \[ \mathrm{im}WN^{k}\subset\mathcal{W}_{k^{*}-k},\quad k=0,1,\dots,k^{*}\label{eq:wnk} \] が成り立つ. これを示すことができれば, \(\mathrm{im}WN^{k^{*}}\subset\mathcal{W}_{0}=\{0\}\) が成り立つ. \(W\) は列フルランクなので単射, したがって \(N^{k^{*}}=0\) が従う. 式 を帰納法で示そう. \(k=0\) に対しては, \(\mathrm{im}WN^{0}=\mathrm{im}W=\mathcal{W}^{*}\) より明らか. \(k=s\) で \[ \mathrm{im}WN^{s}\subset\mathcal{W}_{k^{*}-s} \] が成り立つとしよう. \[ \begin{aligned} y\in\mathrm{im}WN^{s+1} & \Longrightarrow\exists x\ \text{s.t.}\ y=WN^{s+1}x\\ & \Longrightarrow\exists x\ \text{s.t.}\ Ay=AWN\cdot N^{s}x\\ & \Longrightarrow\exists x\ \text{s.t.}\ Ay=EW\cdot N^{s}x & & (AWN=EW)\\ & \Longrightarrow Ay\in E\mathcal{W}_{k^{*}-s}\\ & \Longrightarrow Ay\in A\mathcal{W}_{k^{*}-s-1} & & (E\mathcal{W}_{k+1}\subset A\mathcal{W}_{k})\\ & \Longrightarrow y\in\mathcal{W}_{k^{*}-s-1} \end{aligned} \] 最後のステップは次のように証明できる. 今, \(\bar{y}\not\in\mathrm{im}WN^{s+1}\setminus\mathcal{W}_{k^{*}-s-1}\) が存在して, \(Ay=A\bar{y}\in A\mathcal{W}_{k^{*}-s-1}\) が成り立つとしよう. \(y-\bar{y}\in\ker A\cap\mathrm{im}WN^{s+1}\) でなければならないが, \(\mathrm{im}WN^{s+1}\subset\mathrm{im}W=\mathcal{W}^{*}\) および, \(\ker A\cap\mathcal{W}^{*}=\{0\}\) であったので, \(\bar{y}=y\) が成り立たなければならない. したがって, 上のような \(\bar{y}\) を選ぶことはできない. よって, \(\mathrm{im}WN^{s+1}\subset\mathcal{W}_{k^{*}-s-1}\)が成り立つ.% 本編で用いた表現との対応について確認しておこう. \(\{\lambda_{1},\dots,\lambda_{r}\}=\mathrm{sp}(E,A)\) とする. まず, 各 \(i=1,\dots,r\) に対して1次独立なベクトル \[ v_{i1}^{1},\cdots,v_{i\eta_{i}}^{1} \] を \[ (A-\lambda E)v_{ij}^{1}=0,\qquad j=1,\dots,\eta_{i}\label{eq:g1} \] となるように選んだ. \(\mathcal{G}_{\lambda_{i}}^{1}=(A-\lambda E)^{-1}\left(E\mathcal{G}_{\lambda_{i}}^{0}\right)=(A-\lambda E)^{-1}(\{0\})=\ker(A-\lambda E)\) だから, は \[ v_{ij}^{1}\in\mathcal{G}_{\lambda_{i}}^{1},\qquad j=1,\dots,\eta_{i} \] と同値である. 次のステップでは, \[ (A-\lambda E)v_{ij}^{2}=Ev_{ij}^{1},\qquad j=1,\dots,\eta_{i} \] なる, \(v_{ij}^{2}\) を探した. これはもちろん \[ v_{ij}^{2}\in\mathcal{G}_{\lambda_{i}}^{2},\qquad j=1,\dots,\eta_{i} \] である. 同様の手続きで, \[ v_{ij}^{k}\in\mathcal{G}_{\lambda_{i}}^{k},\qquad j=1,\dots,\eta_{i},\ k=1,\dots,k_{ij} \] を見つけるのが, 本編で述べたアルゴリズムの骨子である. 各 \(i\) と \(j\) についてこの手続は有限で終了するのは, 補題 により \(p(\lambda_{i})\) が存在することの帰結である. つまり, \(k_{ij}\le p(\lambda_{i})\) が成り立つ. 容易に確かめられるように無限大固有値 \(\lambda=\infty\) のときも同様である.
このようにして得られたベクトル列 \((v_{ij}^{1},v_{ij}^{2},\dots,v_{ij}^{k})\), \(k\leq k_{ij}\), を固有値 \(\lambda_{i}\in\mathrm{sp}(E,A)\) に対応する固有ベクトル鎖と呼ぶ. 無限大固有値に対する固有ベクトル鎖 \((v_{\infty j}^{1},v_{\infty j}^{2},\dots,v_{\infty j}^{k_{\infty j}})\), \(k\leq k_{\infty j}\), も同様に定義する. \(\lambda=\infty\) を \(i=\infty\) と読み替えれば \(\lambda\in\mathrm{sp}(E,A)\cup\{\infty\}\) を添字 \(i=1,\dots,r,\infty\) を用いて統一的に扱うことができる. 次の定理では下付き添字を省略している.証明. 定理 により, 行列 \(V\in\mathbb{F}^{n\times n_{1}}\), \(W\in\mathbb{F}^{n\times n_{2}}\) が存在して \([V\ W]\in\mathbb{F}^{n\times n}\) は正則で \[ AV=EVJ,\quad EW=AWN \] が成り立つことに注意する.
. \(k=0\) のときは \(\mathcal{G}_{\lambda}^{0}=\{0\}=V\ker(J-\lambda I)^{0}\) より明らか. ある \(s\) について \(\mathcal{G}_{\lambda}^{s}=V\ker(J-\lambda I)^{s}\) が成り立つとしよう. \(v^{s+1}\), \(v^{s}\) を \[ v^{s+1}\in\mathcal{G}_{\lambda}^{s+1}\setminus\{0\},\qquad v^{s}\in\mathcal{G}_{\lambda}^{s},\quad\text{s.t.}\quad(A-\lambda E)v^{s+1}=Ev^{s} \] が成り立つように選ぶ. 命題 (2) によって, \(\xi_{1}\in\mathbb{F}^{n_{1}}\), \(\xi_{2}\in\mathbb{F}^{n_{2}}\) が一意的に存在して \[ v^{s+1}=V\xi_{1}+W\xi_{2} \] が成り立つことが分かる. \[ \begin{aligned} (A-\lambda E)v^{s+1}=Ev^{s} & \Leftrightarrow(A-\lambda E)(V\xi_{1}+W\xi_{2})=Ev^{s}\\ & \Leftrightarrow AV\xi_{1}+AW\xi_{2}-\lambda EV\xi_{1}-\lambda EW\xi_{2}=Ev^{s}\\ & \Leftrightarrow EVJ\xi_{1}+AW\xi_{2}-\lambda EV\xi_{1}-\lambda AWN\xi_{2}=Ev^{s}\\ & \Leftrightarrow EV(J\xi_{1}-\lambda I)\xi_{1}+AW(I-\lambda N)\xi_{2}=Ev^{s}\\ & \Leftrightarrow AW(I-\lambda N)\xi_{2}=Ev^{s}+EV(\lambda I-J)\xi_{1}. \end{aligned} \] 帰納法の仮説より, \(v^{s}\in\mathcal{G}_{\lambda}^{s}\subset V\ker(J-\lambda I)^{s}\) が成り立つ. さらに, \(\mathrm{im}V=\mathcal{V}^{*}\) なので, \[ Ev^{s}\in E\mathcal{V}^{*},\quad EV(\lambda I-J)\xi_{1}\in E\mathcal{V}^{*}. \] したがって, \[ W(I-\lambda N)\xi_{2}\in A^{-1}(E\mathcal{V}^{*})=\mathcal{V}^{*}. \] \(\mathcal{W}^{*}=\mathrm{im}W\) なので, 実は \[ W(I-\lambda N)\xi_{2}\in\mathcal{V}^{*}\cap\mathcal{W}^{*}=\{0\}. \] \(W\) は単射なので, \((I-\lambda N)\xi_{2}=0\), すなわち, \(\xi_{2}=\lambda N\xi_{2}\). \(N\) はべきゼロなので, \[ \xi_{2}=\lambda N\xi_{2}=\lambda^{2}N^{2}\xi_{2}=\cdots=\lambda^{k^{*}}N^{k^{*}}\xi_{2}=0. \] 一方, \(v^{s}\in V\ker(J-\lambda I)^{s}\) としているので, ある \(u\in\ker(J-\lambda I)^{s}\) が存在して, \(v^{s}=Vu\) とできる. \[ \begin{aligned} (A-\lambda E)v^{s+1}=Ev^{s} & \Rightarrow(A-\lambda E)v^{s+1}=EVu\\ & \Rightarrow(A-\lambda E)V\xi_{1}=EVu\\ & \Rightarrow EV(J-\lambda I)\xi_{1}=EVu, \end{aligned} \] \(EV\) は単射なので, \((J-\lambda I)\xi_{1}=u\). したがって, \[ v^{s+1}=V\xi_{1},\quad\xi_{1}\in\ker(J-\lambda I)^{s+1} \] が成り立つ. したがって, \(\mathcal{G}_{\lambda}^{s+1}\subset V\ker(J-\lambda I)^{s+1}\) が成り立つ.
逆の包含関係を示すために, \(v^{s+1}\in\ker(J-\lambda I)^{s+1}\) としよう. \(v^{s}\in\ker(J-\lambda I)^{s}\) を \[ (J-\lambda I)v^{s+1}=v^{s} \] が成り立つように選ぶ. \(EV\) は単射なので, これは \[ EV(J-\lambda I)v^{s+1}=EVv^{s} \] と同値である. さらにこれは \(EVJ=AV\) により \[ (A-\lambda E)Vv^{s+1}=EVv^{s} \] と同値. 帰納法の仮定 \(\mathcal{G}_{\lambda}^{s}=V\ker(J-\lambda I)^{s}\) より, \(Vv^{s}\in\mathcal{G}_{\lambda}^{s}\) だから, \[ Vv^{s+1}\in\mathcal{G}_{\lambda}^{s+1}=(A-\lambda E)^{-1}\left(E\mathcal{G}_{\lambda}^{s}\right) \] が成り立つ. よって, \(V\ker(J-\lambda I)^{s+1}\subset\mathcal{G}_{\lambda}^{s+1}\). これで, 任意の \(k\) について \(\mathcal{G}_{\lambda}^{k}=V\ker(J-\lambda I)^{k}\) が示された.
. まず, \(\mathcal{G}_{\infty}^{k}=\mathcal{W}_{k}\) であることは2つの定義が一致していることから直ちに分かる. \(\mathcal{G}_{\infty}^{k}=W\ker N^{k}\) を示す. \(k=0\) に対しては自明である. ある \(s\) について, \(\mathcal{G}_{\infty}^{s}=W\ker N^{s}\) が成り立つと仮定する. \(v^{s+1}\in\mathcal{G}_{\infty}^{s+1}\setminus\{0\}\) を任意に選ぶ. ある \(v^{s}\in\mathcal{G}_{\infty}^{s}=W\ker N^{s}\) が存在して, \[ Ev^{s+1}=Av^{s} \] が成り立つ. 帰納法の仮定より, \(u\in\mathbb{F}^{n_{2}}\) が存在して \(v^{s}=Wu\), \(N^{s}u=0\) とできる. さらに, \(v^{s+1}=V\xi_{1}+W\xi_{2}\) と分解すると, \[ EV\xi_{1}+EW\xi_{2}=AWu,\quad u\in\ker N^{s} \] を得る. \(EW=AWN\) だから, \[ EV\xi_{1}=AW(u-N\xi_{2}) \] あるいは \[ \begin{bmatrix}EV & AW\end{bmatrix}\begin{bmatrix}\xi_{1}\\ u-N\xi_{2} \end{bmatrix}=0. \] \([EV\ AW]\) は正則なので, \(\xi_{1}=0\), \(u=N\xi_{2}\). すなわち, \[ v^{s+1}=W\xi_{2},\quad\xi_{2}\in\ker N^{s+1}. \] これは, \(v^{s+1}\in W\ker N^{s+1}\) を意味している. よって, \(\mathcal{G}_{\lambda}^{s+1}\subset W\ker N^{s+1}\)
次に, \(v^{s+1}\in W\ker N^{s+1}\) としよう. このとき, ある \(u\in\ker N^{s+1}\) が存在して \[ v^{s+1}=Wu \] とできる. \(E\) は単射なので, これは次と同値. \[ \begin{aligned} Ev^{s+1} & =EWu\\ & =AWNu. \end{aligned} \] \(Nu\in\ker N^{s}\) と \(W\ker N^{s}=\mathcal{G}_{\infty}^{s}\) に注意すると, \[ v^{s+1}\in E^{-1}\left(AW\ker N^{s}\right)=E^{-1}\left(A\mathcal{G}_{\infty}^{s}\right)=\mathcal{G}_{\infty}^{s+1}. \] よって, \(W\ker N^{s+1}\subset\mathcal{G}_{\lambda}^{s+1}\). これで任意の \(k\) について \(\mathcal{G}_{\infty}^{k}=W\ker N^{k}\) が示された.定理 6.10 ({Proposition 3.5, {[}BIT{]}}) ペンシル \((E,A)\) をレギュラーとする. 任意の \(\lambda\in\mathrm{sp}(E,A)\cup\{\infty\}\) に対して, 次の 1〜5 が成り立つ.
- 任意の固有ベクトル鎖 \((v^{1},v^{2},\dots,v^{k})\) に対して, \(v^{s}\in\mathcal{G}_{\lambda}^{s}\setminus\mathcal{G}_{\lambda}^{s-1}\), \(s=1,\dots,k\).
- 任意の \(k\le p(\lambda)\) と任意の \(v\in\mathcal{G}_{\lambda}^{k}\setminus\mathcal{G}_{\lambda}^{k-1}\) に対して, \(v^{k}=v\) なる固有ベクトル鎖 \((v^{1},\dots,v^{k})\) が一意的に存在する.
- 任意の固有ベクトル鎖 \((v^{1},v^{2},\dots,v^{k})\) は1次独立である.
- 次の包含関係が成り立つ \[ \mathcal{G}_{\lambda}\subset\begin{cases} \mathcal{V}^{*} & \text{if}\quad\lambda\in\mathrm{sp}(E,A)\\ \mathcal{W}^{*} & \text{if}\quad\lambda=\infty. \end{cases} \]
- 任意の \(\lambda\in\mathrm{sp}(E,A)\cup\{\infty\}\) に対して \[ \dim\mathcal{G}_{\lambda}=\mathrm{am}(\lambda). \]
定理 で構成したベクトル鎖を並べたもの \[ \bar{V}=\left[v_{ij}^{1},\dots,v_{ij}^{k_{ij}}\ \mid\ i=1,\dots,r,\ j=1,\dots,\eta_{i}\right] \] は \(\mathcal{V}^{*}\) の基底をなす. また, \[ \bar{W}=\left[v_{\infty j}^{1},\dots,v_{\infty j}^{k_{\infty j}}\ \mid\ j=1,\dots,\eta\right] \] は \(\mathcal{W}^{*}\) の基底をなす. これで定理 の証明が完了する.
参考文献
Lewis, Frank L. 1984. “Descriptor Systems: Decomposition into Forward and Backward Systems.” IEEE Transactions on Automatic Control AC-29 (2): 167–70.
Lewis, F. L. 1986. “A Survey of Linear Singular Systems.” Circuits Systems Signal Process 5 (6): 3–36.
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Berger, Thomas, Achim Ilchmann, and Stephan Trenn. 2012. “The Quasi-Weierstrass Form for Regular Matrix Pencils.” Linear Algebra and Its Applications 436: 4052–69.
Luenberger, David G. 1977. “Dynamic Equations in Descriptor Form.” IEEE Transactions on Automatic Control AC-22 (3): 312–21.
Wong, Kai-Tak. 1974. “The Eigenvalue Problem \(\lambda Tx + Sx\).” Journal of Differential Equations 16: 270–80.